この本にはプレミアムがついていて、尼ゾンでは5000円以上になっている。ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの伝記本も何千円かの値段がついている。ムーミンクラブから買えば定価で買えるのだが、配送手数料がとんでもなく高い。格差社会とやらで、貧乏な人がより貧乏になって困っているのに、マネーが余っているところには余っている。それがとうとう書籍にまで及んだということか。
ロシア語世界の文学といえば暗い・重い・長いということしか思い浮かばない。でもサンドロおじさんのシリーズは明るくて軽くて短い。
チェゲムというのはアブハジア共和国の架空の村の名前。アブハジア共和国というのは、ソ連時代は独立していたみたいだが、いまはジョージア(ちょっと前までグルジアと呼ばれていたところ)の一部にされているんじゃないかな。つまりそのへんの、カフカースといわれる地域で、黒海に面した温暖な高原地帯が舞台になっている。だから明るくて面白いのだろう。
この物語はロシア語で書かれたのだが、その地域は言語的にはアブハジア語らしい。主人公のサンドロおじさんはアルメニア語などいくつかの言語を話すことができて、それはそのあたりの住民だったら普通のことなのだろう。名誉やメンツを重んじるところ、客をもてなすべしという社会規範があること、略奪婚の風習が残っていることなど、ウイグル、アフガン、トルコ、ペルシアなど広範囲における社会的価値観と共通していて、いわばその価値観圏のいちばん西の端っこになるのかな。時代はサンドロおじさんの若い頃で、カフカーズにもソヴィエトのコルホーズ化が波及し始めた頃。しかしこの地域では地元貴族もまったりと残っていて、新時代のことをぶつぶつ言っていた牧歌的な時代。
サンドロおじさんはじめ多彩な登場人物がそれぞれユニークな物語を展開する。なかにはサンドロおじさんのロバに語らせている物語もある。いちばんとっつきやすくて面白いのは、「略奪結婚、あるいはエンドゥール人の謎」という章。なんど読んでもディーテールが味わい深く、楽しめる。
さいわい富士見町図書館で見つけたので、タダで何度も借りて読んでいる。
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