2020年11月5日
大学を出て就職して2年めにバグダッドに行かされた。親会社の商社がサダム・フセインにディーゼル発電機を250台くらい売ったので、その運搬設置チームにわしが派遣されたのだ。ディーゼル発電機といっても海上コンテナくらいのサイズなので、クレーンで吊りあげなければならない。クレーンのオペーレーターはアビジェードというでぶだった。
その朝、いつものようにヤードの入り口の掘っ立て小屋でチャイをしばきながらメンバーが揃うのを待っていた。でぶのアビジェードがおでこにでっかい絆創膏を貼っていたので、なんでやねん?どないしてん?という話になった。
「きのうロバに乗っかろうとしたら蹴られて5フィートほど吹っ飛んだんや」
一同大爆笑。
「なんでロバやねん?」
「ふつう羊やろ」
「5ディナール出したら男の子のケツ借りられるやんけー」
わしは思わず言ったもんだ。
「ふつうは羊なんか?」
みんな笑うのをやめて、まじめな顔をしてわしに聞くのだ。
「羊やなかったら、日本人はなにに乗っかるねん?」
わしは聞きかじりの知識でこういった。
「いなかではニワトリらしいで」
みなふたたび大爆笑。涙を流してるやつもおった。
「日本人は抜くたびにニワトリ潰すんか?」
1983年、アート・ペッパーが死んだ年のことだった。
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