2021年2月5日
とてもおもしろい。角田光代さんが巻末で秀逸な解説を書いていて、そこにこの本のおもしろさがうまく描写されている。
我が輩がとくに面白いと思い、何度か読み返したのは、魅力的だけど地雷原の朴さんというコリアン女性とのつきあいのところ。お互いがもりあがったときの、主人公による肩透かしの喰らわせかた。
「私は今、彼女に何か言わなければいけないと直感的に感じていた。
とまどいながらも、彼女のほうに手を差し伸ばした。しかし、もつれる舌が発したのはまたしてもこんな情けない言葉だった。
『あ、それ捨ててくるよ。』
私はビールの空き缶を受け取ると、自分のとあわせてゴミ箱へ捨てに行こうとした。
朴さんが私にしてもらいたかったのは、こんなことじゃないはずなのだ。どうして、こんなことになるのだ。
そう思った瞬間、後ろから細くて白い腕が伸び、私は抱きしめられた。」
「振り返って彼女を抱きしめなければ。少なくとも、彼女の細い手を握ってあげなければ。
しかし、あいにく私の両手はビールの空き缶でふさがっていた。」
高野秀行は練達の肩透かせ師、プロ中のプロであると思う。
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