2020年5月5日
労作で、名著といっていいかもしれない。あとがきにいわく、曽野綾子の「アラブのこころ」について、「アラブをほとんど知らなかった一作家があの程度のものを書くのであれば、中東とまともに取り組んできたものが専門でないからという口実で素通りできるものではあるまい」と云々。
イスラム世界の通史の部分は一応定説とされる西欧の文章からの翻訳ダイジェストなので文体も退屈。しかし1983年の時点でのアラビア通史は、日本語訳があったとはいえ一般読者の手の届くものではなかったので、ここで紹介されたのであろう。いっぽう現代に戻り、イラン革命とイスラエル・パレスチナ問題の経緯は読みごたえがある。とくにイランのモサッデグ政権転覆にCIAが関与したことを、ごく最近までアメリカ政府がそのことを「陰謀論」として認めなかったくらいなのに、1983年の時点であっさり書いているのはすばらしい。
また、ユダヤ人迫害とシオニズムはアラブではなく西欧の問題であると断言しているのも好感がもてる。イスラエル対アラブの構図のみでパレスチナ問題を捉えているかぎり、サウジとイスラエルの急接近は理解できないのだろうけれど、長年ユダヤ人とアラブ人が折り合いをつけて共棲してきたことを考えると不思議なことではない。
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