2021年4月4日日曜日

チェゲムのサンドロおじさん ファジリ・イスカンデル 国書刊行会

この本にはプレミアムがついていて、尼ゾンでは5000円以上になっている。ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの伝記本も何千円かの値段がついている。ムーミンクラブから買えば定価で買えるのだが、配送手数料がとんでもなく高い。格差社会とやらで、貧乏な人がより貧乏になって困っているのに、マネーが余っているところには余っている。それがとうとう書籍にまで及んだということか。

ロシア語世界の文学といえば暗い・重い・長いということしか思い浮かばない。でもサンドロおじさんのシリーズは明るくて軽くて短い。

チェゲムというのはアブハジア共和国の架空の村の名前。アブハジア共和国というのは、ソ連時代は独立していたみたいだが、いまはジョージア(ちょっと前までグルジアと呼ばれていたところ)の一部にされているんじゃないかな。つまりそのへんの、カフカースといわれる地域で、黒海に面した温暖な高原地帯が舞台になっている。だから明るくて面白いのだろう。

この物語はロシア語で書かれたのだが、その地域は言語的にはアブハジア語らしい。主人公のサンドロおじさんはアルメニア語などいくつかの言語を話すことができて、それはそのあたりの住民だったら普通のことなのだろう。名誉やメンツを重んじるところ、客をもてなすべしという社会規範があること、略奪婚の風習が残っていることなど、ウイグル、アフガン、トルコ、ペルシアなど広範囲における社会的価値観と共通していて、いわばその価値観圏のいちばん西の端っこになるのかな。時代はサンドロおじさんの若い頃で、カフカーズにもソヴィエトのコルホーズ化が波及し始めた頃。しかしこの地域では地元貴族もまったりと残っていて、新時代のことをぶつぶつ言っていた牧歌的な時代。

サンドロおじさんはじめ多彩な登場人物がそれぞれユニークな物語を展開する。なかにはサンドロおじさんのロバに語らせている物語もある。いちばんとっつきやすくて面白いのは、「略奪結婚、あるいはエンドゥール人の謎」という章。なんど読んでもディーテールが味わい深く、楽しめる。

さいわい富士見町図書館で見つけたので、タダで何度も借りて読んでいる。

村上ポンタ秀一

 2021年3月17日

https://mainichi.jp/articles/20210315/k00/00m/200/081000c

今津中学校の先輩。ポンタはブラバンやったから、得津武史センセのことをどっかで書いてた。剣道部やったわしらでも得津センセの思い出は尽きないもんがあるから、ブラバンやったらなおのこと。

兄貴のころは得津センセの音楽の時間に教科書を忘れると、即興で歌を歌わされるというお仕置きがあった。兄貴も歌った。

3年後、我輩のころはシューベルトの「魔王」やった。

ブラバンでチューバを吹いてたやつは、便所シンナーでラリった状態で「バッハはなぁ、偉大やねんぞ」と言った。そんなやんちゃなクソガキに音楽と愛を教え、立派に進学・就職させた功績。

ポンタが日本有数のジャズドラマーになって、得津センセはよろこんでたんやないかな。

アジア新聞屋台村 高野秀行 集英社文庫

2021年2月5日

とてもおもしろい。角田光代さんが巻末で秀逸な解説を書いていて、そこにこの本のおもしろさがうまく描写されている。

我が輩がとくに面白いと思い、何度か読み返したのは、魅力的だけど地雷原の朴さんというコリアン女性とのつきあいのところ。お互いがもりあがったときの、主人公による肩透かしの喰らわせかた。

「私は今、彼女に何か言わなければいけないと直感的に感じていた。

 とまどいながらも、彼女のほうに手を差し伸ばした。しかし、もつれる舌が発したのはまたしてもこんな情けない言葉だった。

『あ、それ捨ててくるよ。』

 私はビールの空き缶を受け取ると、自分のとあわせてゴミ箱へ捨てに行こうとした。

 朴さんが私にしてもらいたかったのは、こんなことじゃないはずなのだ。どうして、こんなことになるのだ。

 そう思った瞬間、後ろから細くて白い腕が伸び、私は抱きしめられた。」

「振り返って彼女を抱きしめなければ。少なくとも、彼女の細い手を握ってあげなければ。

 しかし、あいにく私の両手はビールの空き缶でふさがっていた。」

高野秀行は練達の肩透かせ師、プロ中のプロであると思う。

新疆ウイグル自治区のウイグル人のおっちゃん

 2021年2月4日

トルコ人の写真家が新疆ウイグル自治区の高昌を訪れてウイグル人のおとっつあんと会話している。トルコ語とウイグル語、お互いの言葉で話していて半分がた通じている。この感覚は島国に住んでいる我々にはなかなか理解できない。我々もチュルク語世界のいちばん端っこに位置しているはずなのだが。

Uygur Türkü İle Türkçe Konuşmak - Çin'in Sincan Uygur Özerk Bölgesi - 1

Serinin 2. videosu için; https://youtu.be/03vSjiyLgK0Serinin 3. videosu için; https://youtu.be/MMGsqycbwIoÇin'in ücra bir köşesinde, doğma büyüme oralı olan ...


遊牧民から見た世界史 杉山正明 日経ビジネス人文庫

2021年1月25日

杉山正明といえば鼻息のあらいおっちゃんという印象だったのが、この本を読んで漢籍とペルシア語とその他あれこれの言語を解読する碩学だと知った。この本(1997年)を読んだらおっちゃんのめざしている方向がほぼわかった気になれる。

個人的に面白いとおもったのは、遊牧民とロシアの戦い方に共通点を見出していること。すなわち戦うふりをしつつ退却しつつ、自分のフィールドに敵を引き込んで敵の補給線が延びきったところで叩く(ロシアのばあい冬が来て敵が自滅)というところ、それと黄巣や朱全忠を産んだ中国の塩の専売課税制度が元代になってラディカライズされ、のちの秘密結社=中華マフィアになったというところ。そして世界を植民地化した西欧はその特色としてなによりも軍事国家であるであるというところ。

おもしろくて知的興奮を誘う読書だった。


Chucho Valdés ‎– Canciones Inéditas

2021年1月24日

いままでどっちかというとオヤジさんのベボ・バルデスのほうがいいと思っていた。なんでかというと、息子のほうは早弾きテクニックひけらかし臭があって、だいいち1/48音符(たぶん)の連続なんて何がなんだかわからない。

ところがこの「未発表曲集」と題された2004年のアルバムは、それがなくて聴きやすい。聴きやすいだけでなく、キューバ音楽の良さがしみじみと堪能できる。尼で配送費込みでなんと350円。

蛇足:

2013年のソロ Chucho Valdés - Cancionero Cubano

https://www.youtube.com/watch?v=3z_9FU6T8b4

もなかなかいいのだけれど、早弾きがあちこちにはいっている。自作の曲にそれが顕著なので、かならずしも早弾きひけらかしから改宗したわけでもなさそうだ。

坂本スミ子と米おっさん

2021年1月24日

坂本スミ子 1936年-2021年1月23日 享年84歳

このところ訃報ばっかりや。坂本スミ子の訃報を見てヨネおっさんのことを思い出した。

ヨネおっさんというのは亡父の妹だが、1960年代のなかごろまで梅田のアローというマンモスキャバレーの電話交換手として働いていた。そこでいっしょに働いていたのが「スミちゃん」だった。おそらくスミちゃんは電話交換手ではなくて歌手だったのだろう。

「スミちゃんがあんな有名になるなんてなぁ。」と話していた。

ヨネおっさんはスミちゃんより10歳上で、数年前に死んだ。言葉遣いが男みたいで、「われー」とか「やんけー」とか平気で言うので、幼少のころの我が輩が「ヨネおっさん」と呼んだ。それから一族こぞってその呼び名が定着した。本人はみんなからヨネおっさんと呼ばれることに抵抗を感じたのだろうか。

女の子は女らしくという当時の考えかたと、自分のセクシャリティーの間で悩んだのかもしれない。