2021年8月23日月曜日

陳舜臣 紙の道

 陳舜臣さんがタラス河畔の戦いについて書いていたのは、紙の道という短い文章だったと思う。陳舜臣さんは大阪外大のインド・ペルシア語の出身なので、西域の言葉と中国語ができるという稀有の人である。

そのタラス河畔なのだが、陳舜臣さんの文章にもウィキペディアにも書いていなかったと思うのだが、標高が1300メートルくらい。つまり諏訪でいえば、原村の別荘地の清水閣下の家のあたり。

とはいえ、標高というのは相対的なもの。拙宅も、関西でいえば六甲山のてっぺんくらいの標高なのだが、そんなに高く感じない。タラス川といっても、4000メートル級の山々に囲まれていれば、ただの盆地という感覚だろう。

諏訪湖は標高730メートルだけれど、富士見から盆地に降りていくという感覚になる。

そんなもんだ。

Rethinking water in central asia

 https://carececo.org/Rethinking%20Water%20in%20Central%20Asia.pdf

中央アジアのアムダルヤ流域についてスイス政府の支援で書かれた報告書。100ページくらいあるのに、なんとアフガニスタンに言及しているのが数箇所しかない。

なんでかというと、アフガニスタンはずっとごたごたしているので、技術援助をやりにくいからだろうな。ポイントは技術援助。つまりヒルティ(ルクセンブルクの会社だけどドイツ語世界)とかそのへんの欧州企業が中央アジアを取り込みたいということだ。生臭すぎる。

ヒルティがあるルクセンブルクは、中央アジアのウズベキスタンとおなじく二重内陸国。つまり隣の国も内陸国で、2カ国以上を経由しないと海に出ることができない。だからといってルクセンブルクやヒルティがウズベキスタンに同情とか共感を寄せているということではもちろんないと思う。

ヒルティはタイランドのスワナプーム空港の施工を請け負った。そのときの入札価格は競合他社の7倍。7倍もの値段なのに落札しちゃったのは、もちろん裏で金が動いたから。スワナプームはメンテナンスにもヒルティ製品を使わざるを得ないから、ずいぶん高くつくだろうな。

そのころだったと思う。ヒルティが中国の深圳にでっかい工場をつくった。スイス製のハイドロマットという、ひとつ15億円くらいする(アタッチメントを含めたら30億円くらい)加工機会を150台くらい入れたらしい。そのマシンていうのが性能がすごいだけじゃなくて、コントロールはすべてヨーロッパの本部から行うことができる。原材料をつっこんだら、ほぼ最終製品の形になってぽこんと出てくる。あとは熱処理とメッキをするだけ。それで製品をつくり、プロジェクトがおわったら150台のマシンをすべて破壊して去った。

おそらくスワナプーム空港に使われた製品をつくったのかな。ソフトウェアもコントロール機能もすべて欧州にしかないから、ハードウェアを壊したあとにはノウハウも何も残らない。残さない。

欧州というのはオシャレな貴族ヅラをして、アジアとかアフリカでは、そんなえぐいことを平気でやるのだ。

AFGHANISTAN AND TRANSBOUNDARY WATER MANAGEMENT ON THE AMU DARYA: A POLITICAL HISTORY

AFGHANISTAN AND TRANSBOUNDARY WATER MANAGEMENT ON THE AMU DARYA: A POLITICAL HISTORY

Stuart Horsman

https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.590.7807&rep=rep1&type=pdf

アムダルヤという川はヒンドゥークシの標高4900メートルに源流を発した川が合流し、アフガニスタンとタジキスタンの国境を流れ、さらにトルクメニスタンとウズベキスタンの国境を流れ、アラル海に注いでいた。

標記の論文はアムダルヤと流域国の経緯についてわかりやすく書いてある。

ポイントのひとつは、旧ソ連国がアフガンをなぜかハミゴにしていたこと。確かにアフガンは1979年のソ連侵攻以前からずっとごたごたしていたし、それ以降いまに至るまでずっとごたごたしていたので、流域問題に関われなかったということもある。しかしそれだけでなく、上流だから余裕をカマしていたのもある、と指摘されている。

たしかに。水問題では上流は下流に対して圧倒的に優位に立つ。下流としては(中国がチベットにしたように)軍隊で攻めあがって占領するか、下流の地位に甘んじるしかない。

いまのアフガンの国内問題もそうだが、北部のクンドゥズのあたりは上流なので、カーブルのみならずイランに対しても優位に立っているのである。

2021年7月27日火曜日

ロシア・ソ連を知る辞典

ソ連が崩壊してかれこれ30年以上。この本の続編として「ロシアを知る辞典」というのがあるのだが、高価で、おまけに中古ですらめったに出回らない。しかたがないので古いほうを手に入れて月子が読んでいたのだが、このたび「ロシア」のほうが格安で手に入ったので、「ソ連」のほうをひきあげてきた。寝る前にベッドで少しづつ読んでいるのだが、とてもおもしろい。とくに「チェゲムのサンドロおじさん」の舞台であるカフカーズのあたりの言語や文化など興味が尽きない。



2021年7月20日火曜日

そうか、君はカラマーゾフを読んだのか

 富士見町の図書館で見つけた。なんとまあカジュアルな感じの本で、ドストイエフスキーをまじめに研究している先生がみたら怒るんじゃないか、と考えつつ借りてきた。家に帰ってよくながめたら著者はなんと、我が国のドストイエフスキー研究の第一人者である亀山郁夫大先生ではあーりませんか。もと東京外大の学長。

月子に「こんな本みつけてんで」と見せたら、「仕事も人生も成功するドストエフスキー66のメッセージ」というキャッチフレーズを見て、「仕事とか人生とかの成功ってそもそも何なのか?という問いかけをしたのがドストエフスキーであり、文学じゃないのか?」なんてコメント(趣意)が返ってきた。

この本で知ったんだけれど、ドスやんは40歳のころ博打で身上をスッたり、流刑先のシベリアで税官吏の人妻に恋をして、その税官吏は病気かなんかで死んじゃったんだけれど、美人妻はひそかに恋していた学校の先生といっしょになってしまい、けっきょくドっさんは片思いで終わってしまいましたとさ。おまけにチェーホフ(だったと思う)に「あんなやつはロシア文壇のカビだ」と罵倒されたり。まさに「どこが仕事も人生も成功やねん?」と突っ込みたくなる存在である。

だからこの本は、ウォッカでよっぱらった亀山大先生の話を聞くようなつもりで読んだらいいと思う。亀山先生は佐藤優とウォッカの飲み比べをしたことがあって、完全に負けたらしい。だから亀山先生は、佐藤優を高く評価している。「超人的な知性と知力と肝臓」みたいな表現で。たしかに佐藤優の著作量と、それを支えている読書量はたいへんなもんだと思う。けれど、その知力と知性と肝臓をもってして、つねに情勢判断を間違えているところがおもしろい。そもそも外務省職員のときにアホな罪で捕まったり、さらに何年か前から池田大作と創価学会をやたら持ち上げているところなんかを見ても、情勢判断を致命的に誤るのは福運がないとしか言いようがない。

そもそも亀山先生が孫正義のことを褒めているあたりから興醒めしてきて、このおっちゃんはたんなるヨッパライ感がただよってくる。でも研究者としてとことん悩んだであろうことでもあり、フレーズを抽出するところは訳者ならではの芸だと思う。読んで損はない。



2021年7月4日日曜日

ウイグル族

 バイデン政権が旗をふって中国政府によるウイグル族弾圧を糾弾しましょ、という流れになっている2021年7月上旬の状況である。我輩の考えていることを備忘録として記しておく。

日本にはウイグル族が2000人くらい住んでいるらしく、なかには帰化している人もいる。そんな人たちが、ウイグルの親族と連絡が取れないとか、中国公安に監視されているというのは事実なのだろう。中国政府はそんなことをウイグル人とか少数民族に対してだけやっているわけではなく、香港とか台湾の民主主義人士にも同じようなことをやっていると思う。そんななかで、ウイグルだけ取り上げて云々するのは西欧の内政事情によるものだと思う。

だいいちジェノサイドっていうのなら、アメリカが応援しているサウジによる経済封鎖で餓死に瀕しているイエメン人はどうなるのだ?国連関連機関ですら「数百人の子供が餓死に瀕している」といっているのだから。

それについて言及しておくと、国連の安保理事会かなんかのボンクラはイエメンに対し「無条件降伏」を提示したままらしい。戦況はイエメンのフーシに有利に展開しているので、勝っているほうに無条件降伏を提示するという無能さだ。これはもちろんアメリカ政府がメンツを保持するためにボンクラを動かしたのである。どの口でジェノサイドだ?ということだ。

もっとも中国の外交は内政(のインスタントな反映)であるという名言もあって、中国も欧米も同じ穴のむじなということができる。

ウイグル族はトルコにも2万人くらい逃げて暮らしているらしく、さいきんのトルコがチャイナマネーの影響でウイグル族を捨てるんじゃないかと危惧されている。トルコだけじゃなくて我が国政府もチャイナマネーに弱いのは同じなので、ここにも同じ穴のむじながいるわけだ。

中国政府に虐待された人の中には中国国籍でもウイグル人でもない人たちがいて、カザフスタンの人がホタンかどっかに商品の買い付けをしに来ていて拘束され、拷問されたと言っていた。強制堕胎も見たらしい。

香港でもイギリスの大学とかアメリカ政府に資金をもらって活動している民主人士もいるし、例の「ウイグルの母」もCIAの支払い先リストに載っているという話もある。ウイグル自治区はレアメタルが豊富なので中国は手放したくないはずという話がある。しかしレアメタルの上に暮らしている人々を強制収容所にほうりこんで(2000万人のウイグル人のうち労働人口の数百万人を拘束するか?)強制労働させるというのも非現実的で、それよりもその人たちにレアメタルを掘らせて給料を支払って生活水準を向上させたほうがいいに決まっている。

我輩の意見の根拠をざっくりまとめると、ひとりっこ政策時代の中国でも優遇されていた少数民族が、いろんな意味で漢人なみの扱いを受けるようになった。(ひとりっこ政策については漢人が少数民族なみに解禁された。)それは西欧から比べたらレベルは違うかもしれないけれど、それプラス共産主義ゆえのきびしい宗教事情(チベットに対しても同様だけれど西欧はなぜかチベットのことをあげない)なんかも加わって、いままでゆったりまったりとやってきた少数民族優遇策とイスラム宥和策をやめて、漢人なみにきりきり働けよ、というふうになった。だいたい漢人向けのひとりっこ政策をやめるくらい人口年齢構成がやばくなってきたのだから、ウイグル族(でもチベット族でも)だからといって労働人口の何十パーセントを強制収容所にいれるなんてありえないじゃないか?

ウイグル族は、われわれは漢人ではない!と言いたいのだと思う。それはそのとおりで、でも中国はレアメタルの眠るウイグル自治区を手放さないだろう。CIAなんかがちょっかいを出さないところなら、なんとか折り合いをつけるようになるんじゃなかろうか。


天国に行きたかったヒットマン

ヨナス・ヨナソンによるスエーデンの娯楽小説。この人は「窓から逃げた100歳老人」という娯楽小説がそこそこ売れたので、続編じゃなくて違う趣向で書いたのがこの小説。

ネタバレになるのであらすじはおいとくとして、ディテールがおもしろい。

「くそったれボルボに乗ってくそったれの家に帰ってくそったれイケアのソファでくつろいでやがれ、くそったれ」というような(趣意)罵倒がでてくる。ダイナマイトは出てこないのだが。

さらに、こんな歴史が紹介されている。

< スウェーデンはかつて、福音ルター派の国教会が国を統治していた時代があった。ほかの宗派を信じることは禁止、なにも信じないことも禁止、それと正しい神を誤った方法で信じることも禁止されていた。>

へえ?というような歴史じゃないか。欧州というのは狭いところにいろんな言語のいろんな民族が住んでいて、それがほとんど地続きなので、ちょっと油断して背中を見せると後ろからぷすりと刺されるような歴史を繰り返してきたのだろう。そんななかで競争してきた人たちが科学技術を手に入れ、世界征服をした。いかにもモダンな顔をしているけれど、それは上に述べたような歴史があって、30年戦争みたいな流血をさんざんやって、一神教の無意味さに気づいて近代がはじまった。

この「地続き」という恐怖の感覚をぜひ知りたい、と思うのだ。だからいろんな小説を読むのがおもしろい。