2021年7月20日火曜日

そうか、君はカラマーゾフを読んだのか

 富士見町の図書館で見つけた。なんとまあカジュアルな感じの本で、ドストイエフスキーをまじめに研究している先生がみたら怒るんじゃないか、と考えつつ借りてきた。家に帰ってよくながめたら著者はなんと、我が国のドストイエフスキー研究の第一人者である亀山郁夫大先生ではあーりませんか。もと東京外大の学長。

月子に「こんな本みつけてんで」と見せたら、「仕事も人生も成功するドストエフスキー66のメッセージ」というキャッチフレーズを見て、「仕事とか人生とかの成功ってそもそも何なのか?という問いかけをしたのがドストエフスキーであり、文学じゃないのか?」なんてコメント(趣意)が返ってきた。

この本で知ったんだけれど、ドスやんは40歳のころ博打で身上をスッたり、流刑先のシベリアで税官吏の人妻に恋をして、その税官吏は病気かなんかで死んじゃったんだけれど、美人妻はひそかに恋していた学校の先生といっしょになってしまい、けっきょくドっさんは片思いで終わってしまいましたとさ。おまけにチェーホフ(だったと思う)に「あんなやつはロシア文壇のカビだ」と罵倒されたり。まさに「どこが仕事も人生も成功やねん?」と突っ込みたくなる存在である。

だからこの本は、ウォッカでよっぱらった亀山大先生の話を聞くようなつもりで読んだらいいと思う。亀山先生は佐藤優とウォッカの飲み比べをしたことがあって、完全に負けたらしい。だから亀山先生は、佐藤優を高く評価している。「超人的な知性と知力と肝臓」みたいな表現で。たしかに佐藤優の著作量と、それを支えている読書量はたいへんなもんだと思う。けれど、その知力と知性と肝臓をもってして、つねに情勢判断を間違えているところがおもしろい。そもそも外務省職員のときにアホな罪で捕まったり、さらに何年か前から池田大作と創価学会をやたら持ち上げているところなんかを見ても、情勢判断を致命的に誤るのは福運がないとしか言いようがない。

そもそも亀山先生が孫正義のことを褒めているあたりから興醒めしてきて、このおっちゃんはたんなるヨッパライ感がただよってくる。でも研究者としてとことん悩んだであろうことでもあり、フレーズを抽出するところは訳者ならではの芸だと思う。読んで損はない。



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