2024年7月15日月曜日

兵站 福山隆 扶桑社

10日ほど前、著者の福山隆氏から我輩の顔面本(フェースブック)に友達申請が来た。「誰かいな?」と思って調べると、自衛隊OBである。自衛隊つながりといえば、パキスタン時代に日本人会でご一緒したA大佐くらいしか存じあげない。福山氏の顔面本を拝見すると、トモダチが5000人くらいいらっしゃるので、拙者のようなこの世界の片隅の住人など回答しなくても良かろうと放置している。でもご著作は気になったので、ブッコフオンラインで探した。

宣伝文句には、聖書時代のジェリコの戦いの兵站のことから起草しているみたいに書いてあった。期待したのだが、宣伝文句は嘘。イントロに書いてあるのは、エジプトのバビロン捕囚からカナンの地に帰ったモーゼとユダヤ人の一行の話である。しかも兵站には何の関係もない。食うものがなくて困り、杖をひと振りしたらウズラの大群がやってきてそれを食った。水が苦くて飲めないので杖をひと振りしたら甘くなり、それを飲んだ。眼前の紅海と背後に迫るエジプト軍に挟まれて困り、杖をひと振りしたら紅海がぱっくり割れて渡れました。めでたしめでたし、というのは兵站ではない。ただの神話の、ただのデタラメである。

イントロのところで読み進める気をなくしてしまった我輩だが、古本ながら850円も払ったので、我慢して読み進めた。

この本は、日清戦争からイラク戦争に至るまで、兵站の観点から素人にもわかりやすく解説した良書である。(イントロ以外は。)しかも石光真清はじめインテリジェンスのために挺身した英雄たちの列伝にも、かなりの部分を割いている。素晴らしい。我輩は石光真清の大ファンだし、この本には出てないけれど木村肥佐生さんの大ファンである。

あくまで素人のための兵站入門書なので、これを以てなんかわかったようなことをウェブとかブログに書くのは差し控えたほうが宜しかろう。プロにはプロの世界があるので、我々素人はマスメディアの偽情報を乗り越えつつ、プロの仕事をじっと観察するのが素人の筋である。

インパール作戦で何万人も餓死させた牟田口みたいな魯鈍を意思決定者にしないため、そして牟田口みたいな魯鈍を意思決定者にさせないような組織にさせるため、我々素人がメディアの情報操作を乗り越えるのが大事だし、素人ながら兵站の重要性を認識するのも大事なことだ。

筆者はプロOBとして、朝鮮戦争の章の249ページですごくいいことを指摘している:

筆者として指摘したいのは、「策源地(兵站の源)のソ連と中国が顕在する(無傷でいる)限り、米国は朝鮮半島をすべてを自己の影響下に置くこと(占領)はできなかった」ということだ。

そして同じ主張が、次章のベトナム戦争の冒頭で繰り返される。

現在進行中のウクライナ戦争でも同じことが繰り返されている。アメリカはベトナムの敗戦以来、何も学んでいない。学ぶには肥大化しすぎ、老化しすぎた組織体だ。彼らがいま読むべきなのは、「失敗の本質」だ。

いろんなことを考え、思い出させてくれる。兵站の入門書として、全国民必読の書である。


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