1987年に刊行され、その後に絶版となった本が2014年に再刊された。上巻は「消え去った鉄道編」である。
茅野市北山芹ヶ沢の師匠のところで農業を学んでいたころ。師匠曰く、北山には鉄鉱山があって、鉄鉱石を運ぶ貨物船路が茅野駅まで敷かれていたと云々。大東亜戦争の頃の話であり、白人捕虜がこき使われたらしい。「この地域の気性が荒いのはそのせいもある。」と、師匠は語った。その跡地はいま、風光明媚な自動車道路になっている。
この本の存在を知ったとき、その線路の歴史を知りたいと思った。手に入れて読みはじめると、あちこちに鉄道が敷かれていたことを知った。千曲川流域では現役の上電、長電だけでなく、丸子電鉄もあったという。丸子は何度も通過したことがある。そういえば、鉄道の駅があっても不思議ではない街の佇まいだ。上田と諏訪を結ぶ大門街道にも鉄道敷設の計画があったらしい。計画倒れになったり、廃止された路線のあとには、どこにも素晴らしい道路ができている。
長野県飯田市と岐阜県中津川市を結ぶ中津川線が計画され、一部着工していたという。恵那山の下に神坂(みさか)トンネルを掘る、ということは、いまの中央道の恵那トンネルに並行したルートだ。もしこの中津川線が開通していたら、塩尻から名古屋に至る鉄路は、いまの中央西線に比べて格段に楽な地形を通ることになる。ということは、のちのリニア計画にも大きな影響を及ぼしたかもしれない。
鉄道が廃止されたり計画倒れになったのは、要すればモータリゼーションに負けたということ。資源や環境やらで時代の風向きが変われば、鉄道に有利な風が吹くかもしれない。何十年か経ったら、電車に乗りながら、「ここは昔、道路しか通ってなかったらしい。」なんて語る時代が来る可能性もある。
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