2023年6月4日日曜日

ユーラシアの東西 杉山正明

月子の家にあったので、「これおもろいやん」とコメントすると、「それパパが持ってきたんやで」とのこと。

どうやらロシアの特別軍事作戦が始まる前に読んだのと、始まって何年かたって読んだのとでは面白さが違ったようです。

済州島で開催された学会に参加した杉山さん。鎌倉時代の元寇について、その頃は気動船ではなく、風まかせの帆船の時代で、海運は海流に大きく左右される。そんなことを前提にしないと歴史は解釈できない云々と言います。大変おもしろい。

しかし同じ杉山さんが、アフガンに攻め込んだアメリカ軍について、南下したいロシア、西に勢力を延ばしたい中国、東に勢力を延ばしたいイラン、北に勢力を延ばしたいインド、これらの勢力にアメリカが楔を打ち込んだ、みたいな言いかたをしています。

中村哲さんは、アメリカ軍は空軍基地にひきこもっていて、ときどき飛行機で出かけていって爆撃する、それだけだ、みたいなことを書いていました。最終的に撤退。だから、杉山さんの見立てはぜんぜん違った。地図とか地形図とか眺めているだけでは、よくわからないし、解釈がとんちんかんになる。

歴史家は、数百年から数千年とかいう視線で歴史の因縁を考察するので、比較的短期の国際政治みたいなのにコメントすると、当たるときもあれば、大きく外れるときもある。

この本で名前だけ触れられている廣瀬陽子さんは、ウクライナ戦争がらみでメディアに登場し、とんちんかんでマトはずれ、結局BBC・CNNのデマ追認という役割をふられた。それは彼女が歴史の学者で、数百年みたいなながーいスパンでウクライナとロシアのことを調べてきたから。

済州島の海流みたいに、無理なことをゴリ押しして、それでもうまくいったというのは、歴史ではあんまりない。ハンニバルくらいかな。

杉山さんはこの本でロシア軍をアホ扱いしていますが、それもちょっと違うんじゃないかな。軍隊は装備を揃え、兵隊を訓練し、飯を食わせ、動かす組織。地道にゴリゴリやるしかない。本当のアホはアメリカの政権中枢とシンクタンクではないか。明治維新以来の日本という、欧米にとっての成功体験が彼ら彼女らをアホの塊にさせたのではないかと我輩は思う。

明治維新というのは、ウクライナみたいに弱体だった日本の皇族を、ウクライナみたいに西欧が資金や軍事ノウハウや軍備で支援して成功させたクーデター。明治政府をおだてて、中国とロシア相手に立て続けに戦争させ、近代の分水嶺みたいなのにしたのも欧米。その日本を陥れて、大東亜戦争に持ち込ませ、核爆弾で一般人を殺戮し、占領したのも欧米。躍らされた日本は、それでも欧米に貢献してきました。

それから欧米は戦争に勝っていない。勝たない戦争をずるずる続けることで、軍産複合体が太り続け、一方でシンクタンクも政権もアホの塊になってしまった。

24歳のときイラクに派遣され、砂漠で途方に暮れた我輩。こんなとこでどうやって食い、眠り、生きていくのか。ここの人たちは何をくい、飲み、どこで眠り、どうやって生きていくのか。地図とか地形図とか、人口とか分布とか、資本力とか軍備とか、輸送ルートとか気候とか、河川とか季節とか、そういう机上の知識もだいじだけれど、そこで人々がどうやって生きていってるのか、そんな視点がないとアホになると思います。

下諏訪にも観光客が戻ってきました。外国人のグループもいます。下諏訪には首塚というのがあります。ウクライナみたいに弱体で、西欧の支援でようやく歩きだした明治政府。プロパガンダ目的で「明治政府になったら年貢免除!」というスローガンを広めるため、血気盛んな若者をリクルートし派遣。そのグループが下諏訪あたりまできた時、どうやら明治政府が勝ちそうな趨勢になった。勝ったら免税なんてやるわけないので、プロパガンダ隊が困ったことになった。邪魔なので捕まえて殺した。それが首塚。名誉回復したのは随分あとだそうです。

イデオロギーや勢いで突っ走ると、ろくなことはない。

普通の人たちは、明治政府が勝つか、徳川幕府が勝つか、勝ったほうに従うに決まっています。あるいはその土地で声の大きい人に従うしかない。現地の人たちが何を食い、どこで眠り、どうやって生きていくのか。地面に近い視線で想像力をめぐらさない限り、アホのかたまりになってしまいます。

杉山さんの指摘で面白かったのは、もうひとつ。グルジアとの戦争は、ロシア軍がずいぶん前の時点で準備していたに違いないというところ。それはそうだと思う。サーカシビリはずっとやんちゃなことを言ってきたから、当然でしょう。でももっと面白いと思ったのは、グルジア戦争以来、西欧はウクライナをうまく活用してロシアをやっつけてやろうと思っていたんじゃないかな、と気づいたこと。中国をやっつける前哨戦でロシアに手を出させたというんじゃなくて。中国とはぜんぜん別の文脈で。



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