2022年8月20日土曜日

告白 町田康 中公文庫

石牟礼道子さんが巻末の解説を書いている。会話がコテコテの河内弁で構成されたこのストーリー、石牟礼道子さんは天草の人なのでさぞかし読みにくかっただろう。「訊ねる」が鼻音化して「たんねる」になる、というのは、我が祖母おちかの世代の言語である。

「告白」のモデルになった事件が起きたのは1893年、主人公の城戸熊太郎は36歳。その年に祖母おちかの父親、小谷幾太郎は34歳。事件のヴェニューは河内の赤坂村字水分。我が曽祖父・幾太郎の実家・浜寺からわずか20kmくらいの距離である。ちなみに主人公熊太郎は農家の長男だったが、熊太郎自身は農業ではなく博徒であった。我が曽祖父・小谷幾太郎もそこそこ大きな農家の長男だったが、博徒であったらしい。まるでおんなじやんけ。

男30代半ばというのは、落ち着いているような迷っているような、わけのよぉわからんときである。異性関係でも仕事でも、離婚したりモテたり、嫉妬したりされたり、やっぱりわけのわからんときである。そんな微妙な年頃に、近所で10人を殺戮して有名になり、「男持つなら熊太郎」と河内音頭のヒーローにもなった熊太郎のことを、同じ背景を共有した小谷幾太郎はどう思っていたのだろう?というわけで、我が輩にとってまるで他人事ではない。

と、同時代に同じ文化を共有した多くの人も、そして現代の関西人も共感するのだろう。

同作者の「ギケイキ」ほどのスピード感がないのは、新聞小説ゆえか。まじめにコツコツ、ごりごりと書かれている。素晴らしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿