この本では、シェークスピア(1564〜1616年)自身はユダヤ人に会ったことも見たこともなかったかもしれないという。
調べてみると、こういうことだ。
1290年、エドワード1世の命令でユダヤ人がイギリスから追放された。約400年後の1689年ごろクロムウェルが解禁するまで、リクツのうえで(ほんとうに追放令が忠実に施行されていたとして、というはなし)ユダヤ人はイギリスに存在しなかった。
シェークスピアの「ベニスの商人」というドラマでシャイロックというユダヤ人の金貸しが描かれている。シャイロックからカネを借りたアントニオが借金を返せなかったので、抵当の自分肉1ポンドを取り立てようとして失敗した話だ。
そもそもアントニオがカネを借りるとき、自分肉1ポンドを抵当にするという条件で合意したはず。シャイロックにとって、カネを返せないなら抵当を取る、という日常的なビジネスオペレーションだった。しかし邪悪な裁判官が、血を流さずに肉を切れ、なんていうから貸し倒れになってしまった。たとえばの話、土地を担保にカネを借りて、返せなくなったとき土地を取り上げられそうになった。そこに犬小屋があって、犬が住んでいるとする。「犬と犬小屋を撤去せずに土地だけ取れ」みたいな裁判所命令が出た、という現代的にみれば理不尽な話だ。
シェークスピアは、どっかで聞いた話をもとに、ほとんど見たこともないユダヤ人がいかにひどいかというストーリーを書いた。
ところで今日、NHKで「NHKはスタッフの安全を担保しつつ、はじめてウクライナに取材班が入りました」と言っていた。その内容はカメラワークがじつに粗雑で、いままでNHKが流していた(内容はともあれ見てくれは)つるつるピカピカした感じとまるで違った。
そもそもNHKの自前の取材班が「はじめてウクライナに入った」のであれば、いままで流していたニュースはいったい何だったんだ?ということについて、当然のことながら説明もお断りもない。
まるでシェークスピアじゃないか。どっかで聞いた話をもとに(というかウクライナの広告代理店から提供された素材をつかって、どっかの天からおりてくる筋書きにそって)ロシアはこんなひどいやつだ、というストーリーを、公共の電波を使って拡めるのに余念がなかったのだ。おまけにそれに対して視聴料金を取りよる。
アメリカ発のウクライナ関連ニュースがいかに嘘と誇張のかたまりかについて、他ならぬNBCがレポートを出した。それについてケイトリン・ジョンストンがわかりやすい記事を書いてくれている。邦訳は我輩の https://manhaslanded.blogspot.com/ をご参照ありたい。
閑話休題。
ロシアとウクライナの仲がわるいこと、欧州のどの民族も他民族と仲がわるいこと、いつもどこかの国でかならずユダヤ人が迫害されてきたことなど、これは誰が悪いというよりも、地続きの狭くるしいところに、いろんな言語、いろんな文化、いろんな歴史をもった人々が住んでいるという下部構造にもとづくものだ。日本人だって島国ではなく、朝鮮半島に住んだら、1世代くらいで違う考えかたになる。きっとそうだ。
日本人が日本人なのは日本が島国だからだ。
しかるに、なんでイスラムは異教徒に寛容で(ただしサウジのワハーブ派をのぞいて)、キリスト教徒は異教徒、とくにユダヤ教徒に不寛容なのか?それにはキリスト教の成り立ちが関わっている、そこが特殊なところだ。
キリストはユダヤ人で、ほぼ神みたいな存在なのだろう。三位一体とかややこしい進学議論はのけといて、ほぼ神といっておこう。そのほぼ神が、同胞のユダヤ人に殺された。ほぼ神を殺したのだから、ユダヤ人は差別するべきなのだ、というのがキリスト教にビルトインされている。
イスラムのほうでも、ほぼ神のマホメットを誹謗中傷したら死刑だ。しかし特定の民族を弾圧すべし、なんてのはビルトインされていない。そこが違う。
欧州半島という特殊な狭い地域を、キリスト教という特殊な宗教が制圧し、わがままでこだわりが強く、競争心が旺盛な人々がぎゅっと集まって住み、たまたまアラビア経由で科学技術の知識を手にいれた。背中から刺されないために必死に努力し、科学技術でもって兵器を改良し、世界のほとんどを植民地にした。さらに、(非科学的なキリスト教を人民に信じさせた手法を発達させた)独自のマーケティング手法で、じつは無慈悲で残虐な欧州人と欧州について、世界があこがれるシャレオツなイメージ、ファッションと美食と文学と哲学の世界中心みたいに刷り込んだ。
そういうことだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿