2025年10月31日金曜日

ウクライナ戦争の嘘 手嶋龍一と佐藤優 中公新書ラクレ

2023年6月の本なのに、いま(2025年10月31日)に読んでも違和感がほぼない。まったくないというわけではないが、ミンスク2のことをメルケルが「あれはウクライナに武装させるための時間稼ぎだった」とあっさり告白したのはこの本の後だった。それ以降だったら、西側はロシアを弱体化させたかったという事実にもとづいて、手嶋さんと佐藤さんのロシアの立場に対する評価は、ずいぶん違ったのではないかと思う。

手嶋さんは、歴史の転換点にたまたまそこに派遣されていたというラッキーボーイ。でも、NHKの枠におさまらなかったんだな。佐藤さんは、努力家で読書家で、でも人生の決定的なタイミングで致命的な判断ミスをするという、福運にめぐまれないけれど、なんだか憎めない人。我が輩みたいに、努力もあんまりせず、でも地雷原から、地雷原だったと気づかずにへらへら笑って歩いて出てくるようなタイプとは対極の人だ。

「プーチンはマッドマンか」という節で、佐藤さんがおもしろいことをゆってる。「でも日本の現状を見ていると、プラモデルが好きで軍事評論家になったひと、アゼルバイジャンの地域研究者で、ロシアやウクライナを専門としない学者、極秘の公電に接触できない防衛研究所の研究者の評論が大半で」っていうのは、ウケた。プラモデル云々は小泉悠さん、アゼルバイジャンの人は廣瀬陽子、防衛庁の人っていうのは兵頭慎二さんに違いない。廣瀬陽子は、メディアがもとめるようなコメントを進んでしゃべる人で、我が輩は「この人トルコ脳」って思ってた。トルコの立場からしかロシアを見ていない人という意味。同じように、共同通信のロシア東欧デスクで、東洋経済にときどき書いている吉田成之は「ソ連脳」、駐ウクライナ大使だった松田邦紀も同じく「ソ連脳」ということになる。彼らが知っているロシアはソ連時代のみで、その印象でいまのロシアを判断して云々している人たち。そんな人たちが予想をするもんだから、はずれるに決まっている。予想なんてしなくていいのに。

そんな有象無象にくらべたら、2023年の時点で言ってたことが、いまでもさほどの違和感なく読めるこのふたりはえらい。どうしてそう考えるのかという、種明かしをしてくれている。この本が出てからずいぶん時間がたったけれど、この本を読んで、ああ2年前はそうだったな、そしたらロシアって、ほんまにいうこととやることが一致してるなあ、と思う。いい本だ。


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