2023年12月11日月曜日

浄土三部経 上下 岩波文庫 中村元他

中村元さんの解説を期待して購入したのだが、弟子の早島鏡正さんと紀野一義さんがおもに仕事をしたようだ。早島さんの解説もたいへん興味深い。あとがきにご自身の背景に触れたところがある。それによると、顕本法華宗の家に生まれ、広島の原爆で父母姉妹知人を失い云々と。人間的な記述である。法華宗の家に生まれながら阿弥陀経を訳出するという仕事は、なんだかよくわからないところもあるけれど、仏教学者というのはそういうもんかもしれない。

観無量寿経にはこの教えが説かれた背景の説明があって、それを読みたかった。いままであらすじしか知らなかったのだが、翻訳を読むとほぼその通りだった。簡単にいうと、マガダ国王のビンビサーラ王にはアジャータシャトルという王子がいて、王子が父王を幽閉して殺そうとした。ところが21日経過しても死なないので「あれれ?なんでやねん?」と思って部下に尋ねたら、「母君が身体にはちみつヨーグルトを塗りたくって面会に来てはりますえ。王サンはそれを食べて生きてますねん。」王子は怒り狂って母を殺そうとしたけれど、ジーヴァカ医師が「そらあきまへん。父王を殺した王子は過去にもいてたけど、母を殺したらアウトカーストと同じになってしまいますがな。」と諌めたので諦めた。

母であるヴァイデーヒーが身体中に蜂蜜入りヨーグルトを塗りたくって云々。勝手な推測ながら、王子が18歳くらいとして、母は30代。ボリウッド映画で歌い踊るような豊満系の美女がサリーを脱いで身体中に蜂蜜入りヨーグルトを塗りたくり、幽閉された王に面会する。部屋に入ってサリーを脱ぎ、王は王妃の豊満な身体の蜂蜜入りヨーグルトを貪り舐める・・・童貞僧が想像したら爆発しそうな光景ではないか。

我輩の妄想が当たっているかどうかは別にして、他の解説本では王妃が身体に蜂蜜入りヨーグルトを塗りたくって云々「と言われている」みたいな婉曲表現だった。でも原本翻訳本ではもろにそう書いてある。なんで、「と言われている」みたいな婉曲表現にしたかというと、やっぱり童貞僧が爆発しそうになって、その場面しかワテ憶えてまへん・・・みたいな事象が頻発したのではなかろうか。我輩の妄想だけではないと思う。

ま、それはそれとして。注釈や解説によると、浄土三部経のどれかは失念したけれど、成立したのは中央アジアだという。なんでわかったかというと、インド言語の原典写本に中央アジア方言が多用されているから。そもそも子に幽閉され殺されようとした親が絶望状態の中で求めた浄土思想。それがアフガニスタンみたいな荒っぽい土壌で生まれ、戦乱の時期の中国で中国語訳されて広まった。そして日本に移植され、戦国時代に一向一揆で北陸に広まった。概観すると、「死んだらホトケ」みたいな単純な思想が広まる背景には、やっぱり戦争という極限状態でのみ広まるという特性があるんじゃないか。

安富信哉さんが「浄土の眷属 王舎城の悲劇に照らし返されるもの」という文章でそれをちょっとだけ指摘している。もっと掘り下げて、イスラムにせよ浄土思想にせよ、戦争という極限状態でのみ広まることができること、逆に平和が長く続く時代には、その勢いを保持するのが困難なこと、迫害とか弾圧とか戦争によって少数意見(たとえば浄土三部経では女人成仏が許されてないやん、とか)が淘汰され、単純化された教義が迫害とか弾圧とか戦争によって「のみ」広まるという現象を、誰か研究してもええんじゃないかと思う。

誰かそういうのを研究してる文献があったら紹介してください。パレスチナ人がイスラエル政府によって惨殺されている今だから。

アジャータシャトルがなんでそこまで父母を恨んだか?それは、おトシだった父王がバラモンに占ってもらったところ、山の洞窟で修行している仙人が死んだら、その生まれ変わりで王子を授かると言われた。王は仙人が死ぬのを待つのがかったるいので、あっさり殺してしまった。殺した途端にヴァイデーヒーが懐妊した。でも臨月になって王も王妃も不安になったので、高い崖っぷちで出産して、赤ちゃんを崖から落として殺そうとした。でも赤ちゃんは小指の骨を折っただけで助かった。その赤ちゃんがアジャータシャトル王子。だから漢訳で王子の名前は未生怨とされている。

その因縁があかされたのが、お釈迦さんが死ぬ直前の涅槃経。お釈迦さんがなんでその因縁を死ぬ直前までとっておいたのか、というのも興味深い。


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