2022年7月22日金曜日

司馬遼太郎 街道をゆく6  沖縄・先島への道 つづき

 では、「古語を温存している」はずの琉球語が大和語より新しいのか?という矛盾が生じる。

それについては、こういう説明ができると思う。

我々の言語が属するアルタイ諸語のグループには、母音調和という特徴がある。これは、前舌母音グループと後舌母音グループが、あたかも野球のセリーグとパリーグが普段は交流しないように、単語や単語群で共存しないとい不思議な現象である。

以下はあくまでたとえなので容赦願いたい。ウラル・アルタイ語で母音調和を現代まで保持しているのはトルコ語で、そのトルコ語をいま学んでいるのだが、まだ始めたばっかりなのでいい加減なことしか言えない。

例えば、4母音を1組として考える。前舌母音4+後舌母音4で、8母音となる。大和語では、万葉集の時代に母音調和が崩壊しはじめ、8母音が淘汰されて5母音に減少した。琉球ではそれが3母音になった。ヤマト語と琉球語は、それぞれ別々の生成発展のルートをたどって単純化したのである。

さらに、いまここで「ヤマト語」「琉球語」と単純化しているが、司馬遼太郎の標記の本にも出てくるように、琉球語の地域差はヤマトの東北・関東・京都・九州の差異の比ではないらしい。琉球でもヤマトでも、方言はそれぞれ固有のダイナミズムに従って生成発展してきたのであろう。

ヤポネシア語の母音構造はたしかに単純で、南方諸語と共通する局面がある。しかし南方から船でやってきた人々が、そういう人々も多かっただろうし、現に拙者の近い祖先も、その容貌や行動様式からして南方系としか思えないのだが、ヤポネシアで大陸系の色白の娘を口説いて子供をもうけ、その子孫が南方語の文法を捨てて、アルタイ語の文法を採用し、それに南方の音韻を載せた・・・とは考えにくい。それよりも、ヤポネシア諸語が固有の発展生成過程で、音韻を単純化させたと考えたほうが合理的だと思う。

またそのほうが、拙者の恩師・長田夏樹教授をはじめとする諸碩学による考証を積み重ねられた、日本語アルタイ語同源説とも矛盾しないと思うのである。

ヤポネシア諸語と南方諸語の関わりあいを考えるとき、シンプルな音韻以外に共通項が少なすぎる。両者の交流がないとは言えないが、それはあくまで黒潮に面した地域に限られるのであって、ヤポネシア諸島弧の、日本海側も含めて全域で、南方人と大陸系が結婚したと考えるのは、ロマンチックだが無理があると思う。

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