2022年4月11日月曜日

中世の裏社会 人文書院 つづき

 この本では、シェークスピア(1564〜1616年)自身はユダヤ人に会ったことも見たこともなかったかもしれないという。

調べてみると、こういうことだ。

1290年、エドワード1世の命令でユダヤ人がイギリスから追放された。約400年後の1689年ごろクロムウェルが解禁するまで、リクツのうえで(ほんとうに追放令が忠実に施行されていたとして、というはなし)ユダヤ人はイギリスに存在しなかった。

シェークスピアの「ベニスの商人」というドラマでシャイロックというユダヤ人の金貸しが描かれている。シャイロックからカネを借りたアントニオが借金を返せなかったので、抵当の自分肉1ポンドを取り立てようとして失敗した話だ。

そもそもアントニオがカネを借りるとき、自分肉1ポンドを抵当にするという条件で合意したはず。シャイロックにとって、カネを返せないなら抵当を取る、という日常的なビジネスオペレーションだった。しかし邪悪な裁判官が、血を流さずに肉を切れ、なんていうから貸し倒れになってしまった。たとえばの話、土地を担保にカネを借りて、返せなくなったとき土地を取り上げられそうになった。そこに犬小屋があって、犬が住んでいるとする。「犬と犬小屋を撤去せずに土地だけ取れ」みたいな裁判所命令が出た、という現代的にみれば理不尽な話だ。

シェークスピアは、どっかで聞いた話をもとに、ほとんど見たこともないユダヤ人がいかにひどいかというストーリーを書いた。

ところで今日、NHKで「NHKはスタッフの安全を担保しつつ、はじめてウクライナに取材班が入りました」と言っていた。その内容はカメラワークがじつに粗雑で、いままでNHKが流していた(内容はともあれ見てくれは)つるつるピカピカした感じとまるで違った。

そもそもNHKの自前の取材班が「はじめてウクライナに入った」のであれば、いままで流していたニュースはいったい何だったんだ?ということについて、当然のことながら説明もお断りもない。

まるでシェークスピアじゃないか。どっかで聞いた話をもとに(というかウクライナの広告代理店から提供された素材をつかって、どっかの天からおりてくる筋書きにそって)ロシアはこんなひどいやつだ、というストーリーを、公共の電波を使って拡めるのに余念がなかったのだ。おまけにそれに対して視聴料金を取りよる。

アメリカ発のウクライナ関連ニュースがいかに嘘と誇張のかたまりかについて、他ならぬNBCがレポートを出した。それについてケイトリン・ジョンストンがわかりやすい記事を書いてくれている。邦訳は我輩の https://manhaslanded.blogspot.com/ をご参照ありたい。

閑話休題。

ロシアとウクライナの仲がわるいこと、欧州のどの民族も他民族と仲がわるいこと、いつもどこかの国でかならずユダヤ人が迫害されてきたことなど、これは誰が悪いというよりも、地続きの狭くるしいところに、いろんな言語、いろんな文化、いろんな歴史をもった人々が住んでいるという下部構造にもとづくものだ。日本人だって島国ではなく、朝鮮半島に住んだら、1世代くらいで違う考えかたになる。きっとそうだ。

日本人が日本人なのは日本が島国だからだ。

しかるに、なんでイスラムは異教徒に寛容で(ただしサウジのワハーブ派をのぞいて)、キリスト教徒は異教徒、とくにユダヤ教徒に不寛容なのか?それにはキリスト教の成り立ちが関わっている、そこが特殊なところだ。

キリストはユダヤ人で、ほぼ神みたいな存在なのだろう。三位一体とかややこしい進学議論はのけといて、ほぼ神といっておこう。そのほぼ神が、同胞のユダヤ人に殺された。ほぼ神を殺したのだから、ユダヤ人は差別するべきなのだ、というのがキリスト教にビルトインされている。

イスラムのほうでも、ほぼ神のマホメットを誹謗中傷したら死刑だ。しかし特定の民族を弾圧すべし、なんてのはビルトインされていない。そこが違う。

欧州半島という特殊な狭い地域を、キリスト教という特殊な宗教が制圧し、わがままでこだわりが強く、競争心が旺盛な人々がぎゅっと集まって住み、たまたまアラビア経由で科学技術の知識を手にいれた。背中から刺されないために必死に努力し、科学技術でもって兵器を改良し、世界のほとんどを植民地にした。さらに、(非科学的なキリスト教を人民に信じさせた手法を発達させた)独自のマーケティング手法で、じつは無慈悲で残虐な欧州人と欧州について、世界があこがれるシャレオツなイメージ、ファッションと美食と文学と哲学の世界中心みたいに刷り込んだ。

そういうことだ。

2022年4月9日土曜日

中世の裏社会 人文書院

 ユダヤ人の章がエグい。キリスト教世界で殺され、焼かれ、追放され、奴隷にされてきた。キリスト教に改宗したら奴隷ではなくなるのだが、そのかわり財産はすべて没収された。なぜかというと、奴隷所有者は奴隷を失うので、その損失の穴埋めとして財産を没収するのだそうな。

欧州人がエグいのだとか、キリスト教徒がエグいのだとか、そういうことでもないんじゃないかと最近思いはじめている。イスラエルはパレスチナ人に対してじゅうぶんエグいことをやっている。欧州人はモンゴル人をエグいというが、モンゴル人はコサックをエグいという。要するに地続きで住んでいる人たちはそうなりがちなのだろう。

日本人は朝鮮人を二枚舌なので信頼できないという。しかし日本人も、地続きの場所で何世代か暮らせば、サバイバルのために二枚舌になると思う。先祖が朝鮮由来であっても、島国で暮らせば二枚舌を使う必要がなくなるので、何世代かのうちに使いかたを忘れてしまう。我輩の同級生くらいの世代になると、そんなもんだ。日本人とぜんぜん変わらない。

アメリカも基本、大きな島国なので、アメリカ人も欧州の地続きの人たちの発想を理解しないことを忘れてはならないと思う。


ロシア人の真っ赤なホント

 あとがきによるとロシア病に感染したイギリス人による本。思わず声を出してわらってしまうところが何箇所もある。

これによると、ロシア人とウクライナ人は昔から仲がわるいらしい。ジョークがひとつ紹介されている。

ロシア人が宇宙に行ったらしいと聞いたウクライナの老農民、うれしそうに「連中、ひとりのこらず行ったのかね?」

2022年4月6日水曜日

超帝国主義 マイケル・ハドソン

 マイケル・ハドソン先生はスコット・ホートンの反戦ラジオとか、マックス・ブルーメンタールのグレイゾーンとか、ベンジャミン・ノートンのマルチポラリスタとかにゲスト出演していて、親しみやすくてとてもわかりやすい話っぷりでファンになった。

そのハドソン先生が1972年に書いていて、出版社の事情でたなざらしになっていたものにぼちぼち書き加え、なんとその内容がいまのいまになってとても新しくエキサイティング!ということである。

1970年代に徳間書店が翻訳権を取って、しかし政治的理由から出版が止められていた・・・と聞いていた。日本語版がないものだと思って英語版を買って読みはじめたら、そのうち日本語版が出されているのに気づいた。いきがかりじょう今のところ英語版を読んでいるが、そのうち日本語版も手に入れたいと思う。

日本語版の翻訳は広津倫子さん。1947年うまれのこの人は、なんと21冊も翻訳している。すごい仕事量である。いまでこそたとえばDeepLみたいな優秀翻訳ソフトを使って下訳し、それをちゃんとした文脈の日本語にする、というようなまるでさいとうたかをプロダクション的仕事のやりかたであれば、膨大な仕事量をこなすことも可能だろう。しかし我輩より11歳も年上ですよ。そしてファンタジー小説から経済評論までという幅広さ。21冊ぜんぶが徳間書店だから、徳間から頼まれて断れなかったんだろうな。それを考えるとさらに日本語訳を読みたくなる。

内容は、めっちゃおもしろい。興奮する。ロシアと中国の枢軸機構がアメリカのドル基軸通貨体制をぶっこわそうとしているいま、なぜドルが基軸通貨になったのかをさかのぼって学ぶことは決して無駄ではない。

マイケル・ハドソン先生いわく、よく売れるなと思ったら財務省の訓練マニュアルになっていたとのこと。先生独特のユーモアのセンスが光っている。