2021年5月16日日曜日

世界屠畜紀行 内澤旬子 解放出版社

 自分らが食べる肉や本を想定する獣皮がどこでどうやって誰の手を経てもたらされるのか、卓越したイラスト力と、こどものような好奇心で追っかけたルポ。二段組360ページあまりのボリュームに膨大な情報がつまっている。読みたいところを先に読んで、残りはあとから読むというスタイルだったが、3週間くらいかけてぜんぶ読んだ。

部落解放という月刊誌に連載された文章なので、部落差別や職業差別について尋ねてはいるけれど、編集部からの要望に沿って・・・みたいな域を出ていない。神奈川の郊外の新興住宅街で生まれ育ち、部落差別なんでぜんぜん知らなかった著者である。ある意味ぜんぶの日本人がそうなることは同和教育の目的なのかもしれないのだが、質問を投げかけられたほうがときどき苦い表情になる。差別を身近に感じた体験がないと、黙るタイミングを逃してしまうのだろう。

あとがきにも述べられているとおり、屠畜や解体現場で平気でいられるうえに、その足で焼肉をおいしく食べられるという奇特な人である。しかもアラブ圏の濃いオヤジたちとのインタラクションが無上に楽しいという。ほとんど変態である。しかし動物愛護団体の御都合主義を不愉快に思うところなど、共感するところも多い。

たいへんおもしろい。たしか高野秀行さんも絶賛していたと思う。